音楽は人類の長い歴史の中で、ある時は感情表現の手段として、またある時は高ぶった感情を鎮静する手段として常に人類と深いかかわり合いをもって発展してきました。
音楽は人間の美的感覚を満足させ、同時に知的過程を通らずに直接情動に働きかけ、情動を調整したり、その結果として社会適応を阻外するような衝動の昇華作用を発揮します。
音楽の以上のような作用を利用し、心身の障害の回復、特に疾患の発症や経過に動の乱れが関与するような病態の治療に音楽を用いる音楽療法は、近年心身医学領域でも種々の病態に対して用いられ、その成果の報告が散見されるようになりました。
今回は、音楽を聞くことによって体の変化を誘発する受容的音楽療法について、概要をご紹介します。
受容的音楽療法における「刺激療法」とは?

音楽を積極的に聴きたがらない患者や音楽を聴くことを拒否する患者に対して当初音楽を刺激として用います。
患者の状態像に合わせる
この方法は、自発性の乏しい精神分裂病、自閉症、痴呆などの患者に用いられるが、この際、患者の状態像に応じて、気分、テンポ、音の大きさなどを考慮し、その状態とほは同質の音楽を与えることが勧められています。
これは、Altshuler, I. M.により提唱されたもので「同質性の原理」 (isoprinciple) と呼ばれています。
患者の気分やテンポに合わせた音楽を与えることにより、患者との接触が可能となり、この結果患者の不安などの自我異和的な情動を軽減することができます。
メロディーやハーモニーよりもリズムを優先させる
同質の原理に加えて、Altshulerは、より原始的な感覚と考えられるリズムをメロディーやハーモニーに優先して用いることの必要性を説きました。
これを水戦法といいます。
この原理によれば、患者に与える音楽は、まずリズムから次第にメロディー、ハーモニーへと音楽の要素を変化させ、分裂病で失われている精神の統合機能の回復をはかります。
この結果、音楽が刺激として与えられている間に、患者の中にそれを聴こうとする態度あるいは演奏をしたいという意志があらわれ、鑑賞療法や能的音楽療法に移行する場合もあります。
積極的でない音楽鑑賞者に対しても有効

冒頭で説明したとおり、音楽を積極的に聴きたがらない患者や音楽を聴くことを拒否する患者に対しても、当初音楽を刺激として用いられるため、有効です。
今回紹介した「同質性の原理」・「水戦法」の知識を活用して、現場でも役立ててほしいと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。