音楽療法で効果を発揮する音楽は、心を和らげるような音楽である鎮静的な音楽と眠気をさましたり元気がでる様な刺激的音楽の大きく2つに分かれるかと思います。
今回は、そういった大きな区分で音楽を比較し、考察を進めていきますので、最後までぜひご覧ください。
鎮静的音楽とは

心を和らげるような音楽を鎮静的な音楽と呼ぶこととすると、一番はじめに考えられるのは子守歌です。
まさにこれを聞くことによって幼児の気持ちが静まり眠くなるのであるから最も単純な鎮静的音楽といえます。
子守歌は旋律がレガートで歌われリズムは静かで一様で目立たないもので遅いです。
旋律の音程も変化がすくないのが特徴であるといっても良いと思います。
有名なラヴェルのボレロもはじめの部分はけだるい様なリズムが続いて、体の緊張を解きほぐすものであるが、次第に楽器の数がふえて音の強さが増してくるので、最後には極めて刺激的な音楽になってしまうけれども、はじめの部分は鎮静的といえます。
このようなとくに際立ったものでなくとも、一般的にいって、美しい旋律を持っていてリズムが激しくなければ、その音楽は鎮静的な効果を我々の体に与えるといってよいのではないでしょうか?
音楽のもつ諸要素は次のようなものであるといわれています。
- 振動数(音の高さ)
- 強さ
- 音色
- メロディーとハーモニーを作る音程
- リズムとテンポを作る持続
音高、強度、音色の諸要素は、音楽の持っている音そのものの物理的な特性であって動物たちでさえ、それらに反応するといわれています。
これらの物理的要素を使って旋律が作られ、和音が加えられ、それらがリズムの上に乗って音楽ができるといってもよいと思います。
鎮静的音楽に於いては各要素は概ね次のようになると考えて良いです。
1)鎮静的音楽の高音
どちらかというと低い周波数がよいというよりも、高い周波数の音は刺激といえます。
しかしながら松虫の鳴き声は高い音であるが、けっして刺激的ではありません。
このことは次の要素「音の強さ」と関係があります。
徐々に強さが増して来て一定の強さが維持されて続き、また緩やかに弱くなる様な場合は決して刺激的ではないし、むしろ心地好いといえます。
この事からわかる様に音の高さは絶対的な要素ではないです。
2) 鎮静的音楽の強度
音楽には常に音が大きい所と小さい所が時間の経過と共に存在するが、その変化が大きすぎては、これを聞く者に刺激的に作用するのが普通です。
音楽が鎮的である為には音の強さの変化が緩やかであってしかも音量があまり大きくない必要があります。
一定のけだるい様な強さの変化の繰り返しは多分、眠気をさそう。 そのような意味で鎮静的といってもよいのではないかと考えます。
3) 鎮静的音楽の音色
すべての音は音色を持っています。
最も単純な音色は正弦波の音といえます。
しかしこれとても独特の音色を持っているけれども、聞いていてなんとなく物足りない音です。
実際に我々が聞く音楽の音はそれが普通の楽器による場合であろうと、電子楽器による場合であろうと、それだれに独特の音色を持っています。
これは音の高さを決める音波の周波数のほかに、その周波数の2倍、3倍、4倍という様な倍音とよばれる周波数の音を伴っているため起こる現象であって、倍音の割合によって音色が変わってきます。
音色は聴く人の主観によって評価される極めて美感的な要素です。
ヴァイオリンという楽器には有名なストラディバリウスやグアルネリ等の作者がいて夫々に美しい音色の楽器であるが、どちらを好むかは人によって異なります。
勿論同じ楽器を弾いても演奏する人によって音色が違ってしまうので上手下手がわかってしまいます。
ピアノの場合は楽器の製造会社や調音による事のほかに弾きかたによって、驚く程の音色のちがいが出てきます。
音楽を聴く際にはこの様な音色の違いによって、その演奏に酔ったり、つまらなく思わされるといってよいです。
そしてそのように音楽に心が深く感動させられるという快楽的な現象こそ、我々の気持ちが鎮静化するか、刺激をうけるかを決めるものとしてよいと考えます。
いい換えれば音色は音楽における極めて重要な要素であって、とくにどの楽器で演奏するかとか、どの楽器とどの楽器を組み合わすかは作曲者が苦心する所です。
楽器の組み合わせによってその音楽の音色、あるいは表情が作られるわけであるが、どの様な音色が鎮的かについては一概に決めかねます。
ただいえることは不協和音は望ましくないという事だけです。
4)鎮静的音楽の音程
続いている2音のあいだの音の高さの隔たりによって音程がきまり、更にそれらのいろいろな高さの音の時間的な並び方がメロディーになり、同時に高さの異なる音が並ぶとそこにハーモニーが生まれます。
メロディーとハーモニーによって音楽はこれを聴く人に情緒的な訴えをするといってもよいのではないかと思います。
特にその音楽が鎮静的であるためには心に素直に入って来るメロディーとそれをさらに甘く美しく聞かせるためのハーモニーが大切です。
しかし作らあまりにもメロディーが美しすぎると情緒的な興奮を来す可能性が生じるので、やや単調に繰り返される様な因子も必要です。
日本音楽には西洋音楽にみられる様なハーモニーはありません。
日本音楽のほうが西洋音楽よりも、ずっと受け入れ易い音楽である筈であるからです。
しかしながら音の組み合わせというべきか、楽器の組み合わせは西洋音楽には見られない印象を聴くものに与えるので、これに付いても鎮静的なものと、そうでないものとあるし、また日本音楽の持つ独特な旋律についても、それが我々日本人にどの様な心理的な影響を与えるのか、今後しらべてゆく必要があります。
5) 鎮静的音楽のリズム
音楽のなかで最も目立つ、ダイナミックな要素である。それだけに音楽が鎮静的であるためには重要な因子であります。
単調でしかも強さにあまり急激な変化があってはなりません。
音の強さと同じ様に、どちらかというと一様な繰り返しが望ましい様にも思われるが、多少のルバートがあったほうが良いです。
二拍子、三拍子あるいは四拍子のどれが良いのか私には判らない。 二拍子は鎮静的ではないようにも思われるが必ずしもそうであるとはいえません。
鎮静的音楽は、我々独自の方法論を確立する必要がある
以上、鎮静的音楽について述べて来たが、どうしても西洋音楽を中心の考え方となってしまいました。
もっと広い視野に立って民族音楽を含めた考察をしたかったのであるが、今回は触れないでおきます。
しかしながらこの問題は自国の音楽がいわゆる西洋音楽だけでない国々の音楽療法を考える場合に大いに問題になるので今後研究していかなければならない事柄であって、我々を含めて単なる欧米の教科書の翻訳的な考え方から離れて、我々独自の方法論を確立する必要があります。
刺激的音楽とは

眠気をさましたりする様な、なんらかの刺激がこれを聴く者に与えられて元気がでる様な音楽は刺激的音楽とよばれます。
この様な音楽は聴くものを活気づける要素を持っていなくてはなりません。
行進曲やダンス音楽は、からだの動きを促す様な刺激を与えるので典型的な刺激的音楽といえます。
しかしながら、その様な単純な刺激ではなくてもっと情緒的な刺激を与える音楽もたくさんあるというよりも、殆どすべての音楽はその様な要素を持っているといってよいし、その様な要素のない音楽はよい音楽ではないといってよいと思います。
従ってここでは初めに述べた様な単純な意味の刺激を与える音楽について述べることとします。
音楽のもつ諸要素について次の様に分けて考えていきたいと思います。
- 振動数
- 強さ
- 音色
- メロディーとハーモニーを作る音程
- リズムとテンポを作る持続
音の高さの時間的な変化がメロディーであり、それに強弱がつけられさらに音色によって特徴づけられ、これにリズムが付けられて音楽の曲が出来るといってよいと考えるが、刺激的音楽に於いては各要素は概ね次のようであると考えて良いと思います。
1)刺激的音楽の高音
低い周波数よりも高い周波数の音のほうが刺激的であるといえます。
音が長く持続せずに短めにとぎれる方が刺激性が強いといえます。
衝撃的な音は確かに刺激的であって、その極端な例は太鼓の音です。
したがって、この場合は低い周波数の音でも十分に刺激的です。
このことは、鎮静的音楽の場合と同じ様に音の高さは絶対的な要素ではないです。
2) 刺激的音楽の強度
とにかく音が大きければ、それは刺激的であることはいうまでもありません。
旋律においても、強さの大きな変化を伴う場合は刺激的なものになってしまいます。
したがって音の強さの変化の程度は音楽の刺激性に関して極めて大きな要素です。
3)刺激的音楽の音色
きたない音は刺激的であるといってよいでしょう。
また反対に極めて美しい音色は魅力的であるがゆえに、聴く者に情緒的に強い興奮を与えるから、その意味で刺激的であるといえます。
つまり何をもって刺激的と規定するのかについて決めないと、ここでの考え方の基盤が定まらない事になってしまうので、ここでは聴いていて元気がでるような、あるいは活気づけられるような音楽ということとしたいです。
同じ旋律でもヴァイオリンで弾くのとトランペットで吹くのとではトランペットのほうが勇ましくて聴くものを元気づけます。
クラリネットをまるい甘い音で吹く場合と「チンドン屋」のようなやや潰れたような音で吹く場合とでは、あきらかに「ちんどん屋」風のほうが刺激的といえます。
シンバルや太鼓でもトルコ風のもののほうが、なんとなく派手で心が浮かれる様な気がするのは、大変面白いです。
オーケストレーションによっておなじ曲でも感じが変わるということは、音色の変化によって音楽がわれわれの心に訴える程度あります。
音色によって音楽は聴くものへの刺激性を変化させるといってよいと思います。
4)刺激的音楽のメロディーとハーモニーをつくる音程
どのような旋律が刺激的であるのか良く分からないが、音程の上下の変化が大きくてスタッカートのついたものは鎮静的なものとは反対であるので、その意味では刺激的な音楽であるといえます。
短い音符が沢山にならんでいる旋律も元気のでる音楽といえます。
厚みのあるハーモニーを伴う旋律は間違いなく聴くものの精神の高揚をきたすと考えるのはクラシック音楽愛好者の大部分でしょう。
ロック音楽の好きな人にとってどのようなひとの、どのような曲が元気のでるものなのか私にはわからないが、それでもロックンロールの原点といわれるロック・アラウンド・ザ・コーナーなどは明らかに体が抵抗の仕様のない渦巻きのなかに引き入れられていく気分になるが、これは旋律というよりもリズムの為かもしれません。
行進曲は軍隊を元気づけるために作曲されたものが大部分であり、有名な曲は間違いなく勇壮で聴くものを壮快な気分にするから面白いです。
刺激的音楽の典型的なものであることは間違いないです。
5) 刺激的音楽のリズムとテンポ
早いリズムが望ましく、したがって早いテンポの音楽の方が刺激的です。
舞踏音楽を考えてみればワルツよりはパソドブレの方が刺激的であるので、おもわず踊りたくなるリズムであるといえます。
刺激的という言い方が正しくないとすれば、体に快感を覚える音楽としている事が望ましいです。
どんな打楽器が使われているかは、その音楽が刺激的であるかないかに大いに関係があります。
演奏はテンポが早くなくスタッカートのついた、アクセントのはっきりしたものであることが望まれます。
刺激的音楽は、個人個人の感受性による
以上いささか漫然と刺激的音楽について述べてきたが、クラシック音楽を中心とした考察になってしまいました。
しかしながらラジオの若者相手の番組を聴いていると元気のでる音楽という質問に対して歌手の名前が出てきいてもなぜそれが元気のでる歌なのかがわからないことが多いです。
さて、私の知らない歌手の場合がしばしばであり、同じ音楽でも、聴く人によって印象が大きく変わるということを意味しているのだと思います。
つまりある人にとっては刺激的であっても、他の人にとってはそうではない場合があるということであります。
おそらくは鎮静的音楽とはちがって刺激的音楽というべきものは、個人個人の感受性におおきな違いがあるのではないでしょうか。
われわれ日本人にとって日本音楽はどのように、われわれの心に入って来るのでしょうか?
琵琶のあの音色や、それを弾きながら語られる物語がいかにわれわれの感情を強く揺さぶるのはなぜなのか、おおいに考えさせられます。
長唄の大薩摩や箏曲の手事の或るものは間違いなく元気のでる音楽であるといえます。
ではインカのインディオにとっては、どんな音楽が元気の出る音楽なのであろうか大変興味のある問題といえます。
音楽療法において患者を元気づけるためにどのような音楽を用いたら良いかを決めるためには、まずその患者の音楽への感受性についてのバックグラウンドを充分に調べる必要があると考えます。
音楽の与える影響はまだ発展途上

いかがだってしょうか。
西洋音楽か日本音楽か、西洋音楽でもクラシックかジャズか、器楽か歌か、古典か現代曲か、ダンス音楽かいわゆるポピュラー音楽等々いろいろあるし、日本音楽についても長唄、清元、義太夫から箏曲さらには民謡までいろいろあるので充分に好きな音楽について調べる必要があります。
これらの点についても何も情報がなく、また西洋音楽にたいして反応が充分でない場合はいろいろの邦楽を使ってみる必要があると思います。
浪花節が音楽であるかどうかは別として、患者によってはこれも試みるべきものと思います。
このような観点から考えると「ナツメロ」は現在の老人に対しては強い刺激を持つ音楽といえます。
私は以前に放射線治療室のBGMを患者の個人個人に合わせて変えるということを試みて大変喜ばれた経験があり、これをpersonalized BGMと命名したが、患者の心に入り込んで元気づける為には、これに似た考え方が必要ではないかと思います。
日本人を対象にした音楽療法には無限の夢があります。
最後までご覧いただきありがとうございます。