音楽療法のHow To

音楽療法って知っておられますか?~③音楽のもつ生理的働き~

そもそも音楽療法の定義は?最初にお伝えするべき大切な事を忘れておりました。

■定義
音楽のもつ生理的・心理的・社会的働きを応用し、心身の障がいの軽減回復・機能の維持改善・生活の質(QOL)の向上・問題となる行動の変容などの目的のもと、意図的に計画的に行われる治療プロセス

日本音楽療法学会による

生理的?心理的?社会的?どういう事?と思われた事でしょう。少しずつ説明してまいりましょう。

生理的働き①「リズム」

「音」そのものは耳からだけでなく、振動も含め身体全体で聞いています。その要素として一番強い力を発揮するのが原始的で単純ですが、「リズム」です。

古代の人々は「リズム」が身体に大きな影響を与える事を知っていました。木を叩き音を出し、やがて木をくりぬき動物の皮を張ると、もっと大きな音が出る事を知りました。(太鼓の始まりです。)

一人で叩くも良し、大勢で叩くも良し、いつの間にか楽しくなって、更には痛みを感じなくなってくる事を経験から学びました。

人類最大のイベントは出産!しかし古代では命と引き換えになるほど大変な事でした。

妊婦の痛みを少しでも和らげるために民は妊婦を囲み、太鼓を叩き、踊り、神秘的で神聖なる出産を祈りました。無事出産すると、きっと神の恵みを讃え、踊り・歓喜の声を出し・太鼓を叩いた事でしょう。

また、狩りに行くときは太鼓を鳴らし皆の気持ちを一つにしたり、狩りに向かう気持ちを高めたことでしょう。

これらの証拠として多くの洞窟絵が発見されています。

  • イギリスで4万5千年前の洞窟で発見された絵
    腹部が大きいふくよかな人を囲むように、向かい合って太鼓を叩く二人の人物、両手を挙げ踊る数人の人物が描かれています。これは人類が描かれている最古の絵です。
  • 2万年前のブッシュマンの先祖の絵とされている
    女性が手を叩き、男性が火の回りで踊っている様子が描かれている。これは医術の踊りとされています。

日本でも「お手を拝借!」なんて呼びかけて三三七拍子をします。なぜか知らない人同士なのに一つになれた気持ちになりますね。

これこそが「リズム」のもつ生理的な働きの一つなのです。

生理的働き②「心拍」

心拍は皆さんもご存じのようにある程度一定で反復しています。心臓の鼓動・呼吸のリズム・血流のリズムなど人体を形作る細胞の一つひとつまでが、リズムを持って波打っています。

音楽用語で言うと「拍」という事になります。胎児・新生児は約144回/分 大人は約72回/分です。

泣いている赤ちゃんをなだめる時、1分間に60~70回くらいの速さでタッピングして、歌いかけると落ち着いてくれます。これはお母さんの心拍数と同じなので安心するのでしょうね。

また胎教にふさわしいテンポは72回/分、又は144回/分と言われています。

日頃、自分自身の心拍数や呼吸数を意識することはありませんが、これらは生命活動の基本なのです。

肉体の中にあるリズムは心臓からです。「打つ」時が緊張で、「打たない」時が弛緩であるなら、リズムは緊張と弛緩の繰り返しです。

この定期的な繰り返しが生命全体のリズムとなり生きる証明なのです。これらのリズムこそが、人間に直接働きかけ生命力を活発にし、バランスを整えてくれるのです。

個人が感じるテンポ感には歩く速さ・育った地域・環境・国・話す速さ・時代等によって、個々が持っている固有のテンポ感には差があります。

ここで面白いデータをご紹介しましょう。

全国の中学生に、一定の拍を聴いてもらいゆっくり感じるまでの時間を計った結果、秋田県が一番長く、東京や大阪は短かったそうです。

すなわち同じテンポでもゆっくり感じたり、速く感じたり、差が生まれます。大阪人はせっかちですものね。(私も大阪人です。笑笑)

速いテンポは、緊張して異常な状態に陥ります。

例えば過去にロックバンド演奏で若い子が失神する事例がありました。大きなスピーカーの前でズンズンというビートを身体全身で受け、速いテンポで心拍数は速くなり、トランス状態(すなわち恍惚状態)に陥り、呼吸は浅くなり失神にいたったという事です。

逆に遅いテンポは、緩みきってしまいます。

クラシックコンサートでゆっくりの曲で聴衆の頭が前後に揺れるのは自然な現象、むしろ素直な身体の反応なのです。

https://ongaku-no-chikara.com/what_adoption_music_therapy/

生理的働き③「1/fのゆらぎ」

1/fのゆらぎは、「癒しの音楽」としてCDが発売されています。何を根拠に???と思っておられませんか?実はちゃんと根拠があるのです! 

「f」はフリークエンシー(frequency)の略で周波数の事です。工学、特に電気工学・電波工学や音響学などにおいて、波動や振動が単位時間当たりに繰り返される回数の事です。単位は「ヘルツ」(Hz)です。

膨大な音、振動現象などを分析し、専門的な関数で表し、それらの数値を縦軸にパワー(強度)、横軸に周波数のグラフに表します。その時斜め右45度傾きに出る音を「1/fのゆらぎ」と言います。

専門的過ぎて私もわけわからん( ノД`)シクシク…

詳しく知りたい方は、パワースペクトル「ゆらぎの世界」(講談社)武者利光著、音楽療法最前線(人間と歴史社)、その他の関係専門書をご覧ください。

では、1/fのゆらぎを持つ音・曲はどんなものでしょうか?

まず自然界では川のながれのせせらぎ、草が風に吹かれてサワサワと聞こえる音、浜辺に寄せては返す波の音、そよ風の音、等々。

ある意味、これも自然界の音かな?「生体リズム」と言われる心拍、血流の音も1/fのゆらぎなのです。

一般的にモーツァルトやベートーヴェンなどクラシックの名曲の多くが1/fのゆらぎを出しています。

モーツァルトやベートーヴェンと育った時代も環境も人種も宗教も文化的背景も違うのに、私たちは彼らの作った曲を聴いて感動します。

どうしてなのか?生体リズムのゆらぎと共通している事で謎が解けそうですね(^^♪

以前お話ししたように、「流行りの曲」と「芸術的な曲」の違いを思い出してください。

きっと生体リズムと関係があるのでしょう。母親の子宮内で聞いていた母親の心音・血流音が赤ちゃんを安心させるのでしょうね。 

勿論、時代の変化は見逃せません。

例えばストラビンスキー作曲「春の祭典」・シェーンベルクの曲などは、余りにもの前衛的過ぎて受け入れてもらえなかったが、今では芸術作品として、大衆に受けいれられています。

でも現代音楽の全体的な傾向として、リズムが非常に複雑であったり、鋭い不協和音や、ひきつったような途切れ途切れの旋律、調整がない等、あまり安らぎをもたらさない難しい作品が多いと言えます。

音楽芸術には優れていても、音楽的に高度になり過ぎて、生理的に合わなくなっている面があります。

最後に

これらの知識はあくまで参考になさってください。決して押し付けるものではありません。

ただ私個人的には乳児・幼児は真っ白な状態なので、親の好みでなく生体リズムを大切にしていただければ幸いです。

https://ongaku-no-chikara.com/active_music_therapy_pattern/