音楽の心理的作用は、音楽が古来「魂の薬」として用いられた長い歴史と、音楽の持つ摩訶不思議な能力とに関わっています。
今回は音楽による感情を変化させる作用の理解から、より音楽療法の理解をしてもらおうと思いますので、ぜひ最後まで御覧ください!
感情の高揚、鎮静、正常化、浄化

音楽による気分の転導は、その方向によって高まる方向、静まる方向、あるいは正常化の方向など、様々な方向が存在します。
それぞれの気分に基づいて、音楽も高揚的音楽、鎮静的音楽、調整的音楽などの名で呼ばれます。
これらの音楽の気分的特徴は、音の動き、リズムやテンポ、和声、長短調、音楽的力動との関係、楽器編成、その他様々な音楽の構成要素の相互的絡み合いに関係し、それらはもっぱら音楽心理学の関わるところとして、音楽療法家の日常の活動に直接関係しています。
例えば、音楽療法家は精神病院での歌の伴奏において、歌い手の気分を盛り上げるために、リズム形や和声や音色を工夫して、その時最も期待される音楽の雰囲気を作り出そうとします。
ふさわしい音楽の判断
また子どものセッションでは、子どもを適切な感情状態に誘導するために、最もふさわしい音楽を即興することが要求されます。
そのような時、軽快なリズムとはどんなリズムなのか、どんな音色にすと荘厳な雰囲気になるか、などは音楽療法家に求められる音楽技術の一部に属します。
音楽療法家は、そのような技術をマスターすることに対する不断の研究心とセンスが必要であることを、ここでは強調しておきましょう。
音楽の浄化作用
音楽を聴いていると、煩悶が去り、心が美しく洗われるような気分になることがあります。
これを音楽の浄化作用と呼ぼうと思いますが、この音楽の浄化作用がどのようなメカニズムで起こるかは充分分かっていません。
よく言われるのは、心の換気(ヴェンチレーション)が音楽によって行われるのだろうということです。
音楽の「同質」の窓から入る
卑近な例ですが、音楽は空調機のようなもので、心の中の古い汚い空気を音楽によって新鮮化する作用を持っていると言えます。
聴き手は、音楽の同質の入口から音楽の中に入り、音楽の中にある様々な異質の要素によって、通風、浄化されて、新しい気分で異質の出口から外に出る。
まず心は同質の窓から音楽の中に入ります。おそらくその音楽の持っている冒頭の雰囲気や全体の気分に引かれて、聴き手はその音楽を聴きたくなります。
音楽の中に入ると、音楽は音楽の持つ同質、異質の全ての要素を動員して心に働きかけます。
そのことが、心が1つの気分状態に固定定着していることを妨げ、心を凝り固まりの状態から、柔軟でフレッシュな気分状態へと変化させます。
もし全体の傾向が清浄な方向に働くならば、私達は音楽が心を浄化してくれたと感じます。あ
この際に一番大事なことは、まず最初に音楽の「同質」の窓から入るという点で、それは音楽療法に限らず、音楽を聴くときの普遍的原理だと考えられています。
2つの経験から心理作用を理解する
ここで2つの経験を紹介しましょう。
音楽の心理作用の参考にしていただきたいと思います。
1つは、大変な大役を担って、そのためにとても緊張してある会合に参加していました。
筆者の発表の番が回ってくる1つ前に、音楽の演奏がありました。
その音楽が始まったとき、筆者は自分の緊張がはっきりと軽くなっていくのを感じ、あっ、これで大役も無事に成し遂げられるな、と確信しました。
案の定うまく出来ました。
この経験とだぶっているのは、私が10数年前、イタリアのジェノヴァで行われた世界音楽療法会議に出席した時のことです。
1週間続いた学会の間中、風邪をこじらせて咳が止まりませんでした。
その学会では、毎晩のように音楽会が教会や劇場で開催されたので、咳が出ることはとても不都合だったのですが、幸い音楽会の間中は咳はほとんど忘れたように楽になり、これも音楽の効能の1つと考えたことを覚えています。
もう1つの経験は自宅でのことですが、ある晩何かとても頭を悩ます問題がひっかかっていて、床に就いてからもその考えを振り払うことが出来ず、寝つけずに悶々としていました。
この状態からどうしても逃れたいと思って、手元にあった精神安定剤を飲むことにしました。と、どうでしょう。薬を飲んで数分も経たないうちに、今まで頭にあったもやもやがスーッと引いて行くのがはっきりと感じられて、頭の中はすっきりした感じになり、その後安眠出来ました。
これは薬の効能です。
この薬の効能と前の音楽の効能を考えると、どちらも甲乙が付け難いほど、心に対して作用を持つことが感じられます。
どちらもすごいものだと実感しますが、私達は薬の効能を生理作用(薬理作用)、音楽の効能を心理作用と呼んでいるわけです。
そのことを考えると、生理作用と心理作用の間には、どれほど厳密な境界がつけられるのだろうか、と疑問が湧いてきます。
両方とも、神経細胞の疲労を回復させ、神経の伝導機能を高めることによって、心の清浄化を促進していることは明らかです。
音楽ごとの気分の転動を理解しよう

いかがだったでしょうか。
ふさわしい音楽を的確に用いることで効果的に音楽療法に活かすことができます。
その他の音楽による感情への影響については、別の記事にて詳しく説明しますので、ぜひご覧ください。
最後までご覧いただきありがとうございます。