音楽が、人の情緒面に大きな影響をおよぼすことはよく知られています。
また、身体機能にもさまざまな効果をもたらすことは古くから体験的に知られています。
しかし、音楽の生理的な側面についての体系的な研究が行なわれるようになったのは、20世紀に入ってからです。
今回は、音楽による筋電図(EMG)への影響について解説します!
音楽による筋電図への影響

筋肉や筋緊張に対する効果についての研究は意外に少ないです。
作曲家は、通常、作曲の時に、緊張と解放のパターンを曲中に織り込むことに神経を使います。
また、Freudをはじめとして、Jacobson, Gesellなど心理学者は、姿勢や筋の緊張は情動の直接的な反映であると重要視しています。
したがって、緊張感のある曲の時には、聴取者に生理的、筋肉の緊張をよびおこすものと考えられます。
こうした意味から、筋肉の電気的な活動を記録する筋電図 (electro-myography:EMG) は GSRの反応よりも直接的な音楽のパラメーターであるともいわれています。
音楽によって生じる身体の運動反応の重要性
Van de Wall (1936) は、音楽によって生じる身体の運動反応は、いろいろな反応のなかで、もっとも早期に起り、もっとも長く持続する、もっとも基本的な反応であろうと推測しています。
これらには、こつこつ叩いたり、うなずいたり、揺すったり、うなったり、パチパチと叩いたり、足を踏みならすといった運動が含まれます。
Seashore(1938)は、これら運動機能を用いなければ、ひとは正確なリズムの認識はできないであろうと述べています。
間接方法を用いた音楽と筋肉の緊張の関係の調査
直接的に筋の緊張を測ることのできなかった頃から、間接的な方法を用いて音楽と筋肉の緊張の関係について調査されています。
Fere(1904) やDiserens(1926)らは音楽の速度と活動の速度、筋肉の持久力、筋力との関係を調査しています。
Sears(1957)は姿勢の変化をFultz(1952)は手のふるえを筋緊張の目安として検討しています。
Fraisse et.al.のEGMを用いた研究
EMGを用いた研究で有名なのはFraisse et.al.(1953)による研究です。
彼らは、両側の上下肢から筋電図をとって、以下の反応を調べています。
- 自然な態度で聴いたときの反応
- 右手で音楽に合わせて自発的な運動をさせたときの反応
- 再び自由な態度で聴いたときの反応
- 姿勢を変えたとき
それによると、自発的なEMGの反応は、自発的な運動の1回目よりも2回目で増加し、運動量は、右手が最も多く、左足が最も少ないです。
楽曲では、筋活動の出現時間のもっとも長かったのは、オーケストラによる曲で、バイオリン曲はそれに較べると少ないです。
また、筋活動の強さは、音楽聴取の2回目に増加するが、反応の構造は単純になり、不必要な刺激に対する反応は減少するといえます。
つまり、音楽によって、筋肉の運動性が高まることを示しており、とくに、右手(おそらく利き腕)を通じて、その作用はあらわれやすいことになります。
さらに、Fraisseは、音楽の音の強さと筋反応との関係を検討しています。
音を大きくすると、それまで反応のみられなかった被験者にもEMGの反応がみられるようになり、反応のあったものでは反応数と反応の強さが増します。
音のレベルを小さくすると、その反応は減少し、これらの筋肉の反応は減少し、これらの筋肉の反応は音の強さに比例することを明らかにしています。
その他のEGMを用いた調査
Sears(1957) も、音楽によって筋肉の緊張が予想されたような変化を生じるのをみいだしています。
また、Ole’ron and Silver(1963)は 音楽家でない人よりも音楽にたずさわる人の方が大きなEMGの変化をきたすとしています。
Clynes(1970)は指揮者の指の運動を観察して、音楽聴取時に曲の種類に関係なくある一定の運動を示すとしています。
東(1952、松井による)は、リズムと筋電位の関係について興味深い現象を観察しています。
被験者は、メトロノーム音だけを呈示したときには、筋電図にはそれに相当する反応はあらわれなかったが、メトロノームに合わせて音楽旋律を想起するように教示したところ、楽曲の進行に対応した筋興奮を生じています。
これは音楽刺激に対する心的体制の重要性を示唆するものであります。
Reardon & Bell(1971)は、音楽的刺激は身体全体の活動性に影響を与えると仮説しています。
精神遅滞の少年では、鎮静的な音楽でも刺激的な音楽でも同様に活動性を低下させます。
Brickmann(1950)とPatterson(1959)は、刺激的な音楽は活動性と自発的な運動を増加させ、鎮的な音楽は活動を低下させるという同質性の仮説を述べています。
曲のテンポの変化の身体ゆすり運動に対する影響を調べたStevens (1971)のデータもこのことを支持するものであります。
Shaton(1957)は、どの様な音楽や騒音によっても“drive’ (activityに含まれるが)は増加する事を明らかにしています。
神経症患者への音楽と筋肉緊張の関係
ところで、神経症患者では、筋緊張の強いことが知られているが、音楽を聴いて緊張が緩和すると筋肉の緊張も減少します。
牧野(1987)は、緊張の強い抑うつ神経症患者に、好きな音楽を聞かせて、その時の筋電図と皮膚温を測定しています。
音楽を聴いていないときに較べ、聴取しているときには、前頭部の筋緊張は低下し、皮膚温度は上昇反応を示しています。
音楽により身体的なリラクセーションのおこっていることを示すものです。
このように、心理的緊張の強い例では、音楽を聴くことによって、筋電位の減少がみられます。
音楽は人の行動に影響を与える

いかがだったでしょうか?
音楽によって、人間の行動に影響を与えることは、音楽療法の効果を示すエビデンスでもありますよね。
他の記事でも音楽療法の知識について解説していますので、ぜひご覧ください。
最後までご覧いただきありがとうございます。