2015年頃にアメリカ合衆国のマサチューセッツ州ボストン近郊のケンブリッジにある「ハーバード大学」のブログで「音楽療法」に対する効果が紹介されました。
音楽療法とは音楽の持つ力を利用して、人々の健康を促進し、安らぎを与えることを目的としたプログラムのことです。
アメリカに比べて日本ではまだまだ認知度は低いですが、世界では音楽療法に対しての研究を目的とした「世界大会」が開かれるなど、専門分野として確固たる地位を築いております。
今回の記事では、以前、ハーバード大学で発表された記事をベースとしつつ、音楽療法がもたらす効果について紹介していきます。
ハーバード大学も認めた音楽療法の効果とは?

音楽療法がもたらす効果①健康を向上させることができる
音楽療法は人の健康を向上させるのにも一役買っています。
メロディーを聴き、歌詞を言葉に変えて歌う。
それだけでも得られる効果は高いです。
- 大きな声を出して歌うことで「横隔膜」が大きくなり、「副交感神経」が優位になります。
そうなることでイライラが収まり、呼吸も整い、心身にリラックス効果をもたらせることができます。 - 歌う際には「腹式呼吸」を行うので、お腹周りの体幹が鍛えられます。
音楽療法がもたらす効果②認知症患者のQOL(生活の質)の向上させることができる
音楽は認知症患者のQOLを高めるのに一役買っています。
認知症とは年を取っていくことに伴って、脳が変化し、外界の情報を正しく取り入れることができなくなっている状態のことを指します。
これを「機能不全状態」と言います。
この機能不全状態に伴って、行動範囲が制限されます。そして、身体的にも精神的にも負荷がかかってしまうのです。
更に不安や緊張が生じて、当事者本人の気持ちを萎縮させてしまいます。
そこで役に立つのが、音楽です。音楽を聴くだけでも様々な器官を活性化させます。
以下が代表的な器官です。
- 扁桃体⇒扁桃体は「感情」を作り出す器官です。音楽はその扁桃体に好影響を及ぼします。それは不安と緊張を和らげることです。そのことが最終的に「機能不全」に伴う「意欲の低下」を食い止めることにも繋がり、気持ちが明るくなっていきます。身体は思うように動かせなくても、その軸となる気持ちの部分がぶれなければ、希望を持てます。
- 記憶機能⇒自分たちの思い出の音楽を聴くことで、その思い出を認識させる力を活性化させます。そして、そこから、思い出話に花を咲かせることができ、「対人コミュニケーション」面にも大きなアプローチをすることができるのです。
身体の部分は上手くコントロールできなくても、気持ちの面では、くじけてはいけません。
身体と精神のバランスを上手く取り入れることこそが、QOLの向上に繋がっていくのです
音楽療法がもたらす効果③心をケアすることができる
ひとえに心をケアするといっても、ただ音楽を流しているだけでは意味がありません。
人間が持つ「同調効果」と言われる心理現象を上手く利用してこそ、大きな効果が臨めるのです。
同調効果とは「人間は他の人間と同じ行動を取ることで安心感を得る」という現象で、別名「バンドワゴン効果」とも言われております。
つまり、人間は嬉しいときには明るい人と一緒にいたいと思うし、悲しいときには同じように辛さを共感してくれる人といることで安心感を得ることが解明されています。
このことは音楽にも当てはめることができます。
- 嬉しいときにはテンションが上がる曲を聴く⇒無理に落ち着かせるような穏やかな曲を選んでも、心が反発するため、かえって気分が悪くなってしまいます。
- 気持ちが塞ぎこんでいるときには、あえて、落ち着いた悲しい曲を聴く⇒同調効果を利用する。無理やりテンションを上げようとしても、かえってそれが重荷になってしまいます。
人間や周りの雰囲気と同調する人間の性質を上手く利用してこそ、心のケアは完成するのです。
音楽療法がもたらす効果④脳を活性化することができる
音楽療法は、人間の脳を活性化させることにも繋がっています。
特に活性化されやすいのが「知覚機能」と「認知機能」です。
知覚機能とは五感(皮膚感覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚)を用いて、外部からの刺激を受け取るための機能です。
音楽療法を通して、音を五感全体で受け止め「情報」として処理していきます。
そして、認知機能は情報の内容を「記憶面」「思考面」等を参考にして、理解していくようにできています。
音楽療法には、人間が情報を受け止めるための手助けをする力があるのです。
そして、そのことが人間の脳の活性化へと繋がっていきます。
音楽療法がもたらす効果⑤リラックス効果をもたらすことができる
音楽には人間にリラックス効果をもたらす力があります。
その理由は「ゆらぎ」にあります。
ゆらぎとは「規則的な音楽の流れに含まれている不規則な音の流れ」を指す言葉です。
そして、人間が持つ「生体リズム=体内時計」にも含まれています。
この2つのゆらぎが共鳴しあうことで、人間の脳は自律神経を調整し、リラックス効果を得ることができます。
ちなみに、このゆらぎは「川のせせらぎ」や「風の音」といった「大自然の音」やクラシック音楽にも多く含まれており、「リラックス音楽」としても重宝されています。
音楽療法がもたらす効果⑥情動を抑制させることができる
情動とは人が持つ「喜怒哀楽」のような一時的ですが、爆発的なエネルギーを指すものです。
この情動がうまくコントロールできないと、嬉しさと怒りの感情がアップダウンすることになり、人間の精神を疲弊させてしまいます。
そして、情動がうまくコントロールできないが故に、対人コミュニケーションを築いていく上での大きな足枷となってしまいます。
しかし、音楽はそんな問題を助けるための大きなアシストにもなるのです。
鍵は「自律神経」にあります。
自律神経とは人間の身体の機能を管理するために24時間フル稼働している神経です。
自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つで成り立っています。
交感神経は人間が活動している時に活発になる神経で、副交感神経はリラックスしているときに活発になります。
人間はこの2つの神経のバランスが上手く調整されていることによって、心地よい体調を維持することができるのです。
そして、音楽は、この2つの神経を整え、情動を抑制させる力があります。
何故なら、音楽は人間の「しあわせホルモン」と呼ばれる「セロトニン」を多く、分泌させることができるからです。
セロトニンは「脳の働きを活性化させることで、精神に安定をもたらす力」があるため、情動抑制にはもってこいなのです。
音楽療法がもたらす効果⑦痛みを軽減させ、治療効果を向上させることができる
音楽には人間が持つ痛みを軽減させる力があります。
しかし、ここでいう痛みとは、原因がはっきりしている「急性痛」ではなく、原因は分からないが痛みが生じてしまう「慢性痛」を指します。
慢性痛の構造は自律神経が緊張して、血管を締め付けてしまっていることが原因です。
この痛みをカバーするのに音楽は有効なのです。
理由は以下の通りになります。
- 音楽を聴くことによって「エンドルフィン」が分泌されるから⇒エンドルフィンにはモルヒネの6~7倍の鎮静効果があるため多幸感を得ることができる。
- 音楽を聴くことによって「聴覚性痛覚消失」と呼ばれる状態になるから⇒脳が活性化することによって「末梢神経」から脳に伝わる痛みをカバーできるから。
エンドルフィンと聴覚性痛覚消失の原理を応用すれば、ゆくゆくは「がん治療」の分野においても役に立つ可能性があるとハーバード大学は述べています。
しかし、病巣そのものを排除することはできません。
治療に伴う「化学療法」や「放射線療法」への不安を音楽を聴くことによって取り除くことを目的としています。
病気と向き合うにあたってメンタル面へ呼びかけることで、治療へのモチベーションを上げていくことが可能なのです。
十分な理解の上で音楽療法を実践しよう

かつてハーバード大学がブログで、発表した音楽療法の効果について解説しました。
音楽療法が心身の「成長や治療」において多大な影響を持っていることが分かったと思います。
ただ単に闇雲に実践していくのではなく、ちゃんと効果内容を把握していくことで、また結果も変わっていきます。
だからこそ、実施していくにあたっては充分な理解が必要となるのです。