音楽は人類の長い歴史の中で、ある時は感情表現の手段として、またある時は高ぶった感情を鎮静する手段として常に人類と深いかかわり合いをもって発展してきました。
音楽は人間の美的感覚を満足させ、同時に知的過程を通らずに直接情動に働きかけ、情動を調整したり、その結果として社会適応を阻外するような衝動の昇華作用を発揮します。
音楽の以上のような作用を利用し、心身の障害の回復、特に疾患の発症や経過に動の乱れが関与するような病態の治療に音楽を用いる音楽療法は、近年心身医学領域でも種々の病態に対して用いられ、その成果の報告が散見されるようになりました。
今回は、不眠状態患者に対する、近年の受容的音楽療法の実例を紹介します。
不眠状態患者への治療の実例│近年の受容的音楽療法の動向

近年の受容的音楽療法の動向
ある疾患に対して特定の曲が有効であるという考え方に代わり、音楽の選択に当っては患者の個別性や治療構造を重視する考え方が主流となっています。
構造としては、ボディソニック方式の椅子を用いることが多く、聴覚のみならず振動覚も刺激する方法をとっています。
この方法を用いた報告が1987年より定期的に日本バイオミュージック研究会誌で報告されています。
不眠状態患者への受容的音楽療法の実例
患者データ
- 55歳女性 会社員
- 不眠を主訴に来院。
- 3年前より入眠困難出現したため近医より睡眠薬の投薬を受けるも1年間連用し効果減弱したため服薬を自己中断。
- その後、鍼・ヨガ・漢方などを試みるも効果なし。
- 再び元の睡眠薬を服用するも徐々に服用量が増加するため当科来院。
- 既往歴・家族歴では特記すべきことはなかった。
- 症例は5人兄弟の4番目。 高校卒業後主として事務系の仕事を転々としている。 現在の会社では人間関係がうまくいかず孤立している。 また、家庭面でも結婚歴はなく、弟夫婦と同居しているが折り合いが悪い。
- 性格は内向的できちょうめん。
治療経過
本例に対して弛緩訓練を目的としたボディソニック方式の音楽椅子を用いて鑑賞療法を行いました。
この際、治療効果の客観的指標として前頭部に電極を装着し筋電位を測定しました。
治療は週1回外来通院とし、はじめに10分間筋電位をとりベースラインとしました。
好みの音楽を聴かせ筋電位を測定した。 曲目は患者の好みの曲入りのテープを持参させました。
筋電位は音楽鑑賞の前後共3回目のセッションまでに著明に低下し、同時に自覚症状も軽減しました。
一般に、不眠を呈する患者は二次的に不安を伴うことが多く、同時に不安のために不眠が増強するという悪循環に陥りがちになります。
本例は不安を軽減するために筋弛緩を目的として音楽を用い、その結果不眠も改善したケースと考えられます。
患者に合わせて治療を実践しよう!

いかがでしたでしょうか。
今回のような事例を参考に患者に合わせた治療を心がけましょう!
最後までご覧いただきありがとうございました。