例えば、あなたの身近な人が病気を患ったり、何らかの障がいを持つことになったとしましょう。
その時に聞くのが「〇〇療法」と呼ばれる様々な治療法です。
療法は、食事や薬物、運動等があります。
しかし、身体の機能は多少良くなっても、肝心の治療を受ける人達の心が満たされていないケースは多々あります。その理由は好きでもないものを食べさせられたり、苦い薬を飲んだり、望まない運動をさせられていることにあります。
ただ、数ある療法の中でも、人々の表情や気持ちが満たされていると感じるものがあります。
それが今回ご紹介する音楽療法です。この記事では外部(病院、施設)や内部(在宅)でも実践されている音楽療法がどんなものであるのかを紐解き、この療法の必要性を説明していきます。
音楽療法とは?

音楽療法とは「音楽を歌う」「音楽を演奏する」「音楽を聴く」等の行為を通して、人間が持つ生理的、心理的、社会的、認知的な機能に良い影響を及ぼす療法のことを指します。
「音楽を聴く」という行為は「人間の脳の活性化」と「人間の表情や感情の出現」に影響を与えると言われています。聴く行為を通して、音を脳に伝える「知覚機能」が刺激されたり、自分が知っている曲なら「高次脳機能」の「認知」が働くのです。
そして、「歌う」行為を通して「言語」分野や手拍子やリズムといった手足を動かす「運動機能」も働きます。
たとえ、知らない歌であっても、その歌を新たに覚える「記憶機能」やそれに基づいた上で歌う「行為・遂行」の分野にも良い影響を与えるのです。
また、感情を司る「扁桃体」にも働きかけ、そのことが表情や感情の豊かさに繋がります。
音楽療法を行うための3つの目的

高齢者施設の現場では、職員がカラオケ大会を開いたり、楽器演奏をし、利用者と歌ったりすることがあります。
目的は主に3つあります。
音楽療法を行うための3つの目的①:「孤立を防ぐ」
病気や障がいのせいで、体がうまく動かず、周囲との関りを避け、塞ぎこんでしまう利用者がいます。
そこで音楽を通して交流を図ることで、利用者や職員との連帯意識を深めてもらうことを目的としています。
音楽療法を行うための3つの目的②:「コミュニケーションの促進」
定番の曲や懐かしの曲、最新の曲などの話題を通して利用者や職員同士との交流を図るのが目的です。
また「発声する。リズムに合わせる」等の行為を通して利用者の「自発性」を刺激させることも狙いに含まれています。
音楽療法を行うための3つの目的③:「QOL=生活の質の向上」
利用者が日々の生活に苦痛を感じていたら、当然QOLは低くなります。
その原因として考えられるのは、変わり映えのない日々を送り、心身の向上が認知できなくなっていることにあります。
しかし、音楽療法では「コミュニケーションが取りやすくなることによる発語機能の回復」「歌いながら、2つ以上の動作を同時に行うことで認知機能の回復に繋がる」という効果が期待されているので、QOLの向上に繋がります。
音楽療法を実施する際の5つのポイント

音楽療法のやり方の例として、カラオケ大会の実施方法をご紹介します。
音楽療法を実施する際の5つのポイント①:「職員が出だしを歌う」
マイクをバトンリレーのようにして利用者さんに渡し、歌ってもらいます。きっかけを作ることで、利用者さんが歌いやすくなるというものです。これによって音楽療法の目的における「孤立を防ぐ」ことにも繋がります。
音楽療法を実施する際の5つのポイント②:「歌わない人にもリズムや手拍子を入れてもらうように呼びかける」
歌わない人に対してはリズムや手拍子を入れてもらうように呼びかけます。更に、一緒に手拍子をしたり、楽器を使ったりすることで参加しやすい雰囲気を作るのです。
「音楽を聴きながら手拍子や楽器を鳴らす」と言った同時進行の作業を行うことで音楽療法における「認知機能の回復」の効果も望めます。
音楽療法を実施する際の5つのポイント③:「複数人で企画・運営を行う」
「きっかけ作る」「手拍子を行う」「音楽演奏」を1人に行わせるのはあまりにも大変だからです。
音楽療法を実施する際の5つのポイント④:「個人として接する」
利用者は「集団の中の1人」ではなく「個人」として見てもらいたいと考えています。
だからこそ職員は「〇〇さんはこの歌が好きでしたよね」「こんな歌があるんですけど歌ってみませんか」といったアプローチを図ることが大切です。
利用者からしてみれば「職員はただ単に仕事として接してくれているわけではない」ことが分かり、嬉しいと感じるでしょう。人との繋がりがあってこそ、日常生活は充実していきます。これも音楽療法における「QOL」の向上に繋がるアプローチとなるのです。
音楽療法を実施する際の5つのポイント⑤:「寝たきりの人にも音楽を聞かせてあげる」
どんな状態に陥っても人間の「脳」は動き続けています。そこで音楽を聞かせ、職員から利用者に対して歌い、呼びかけることで脳の部位を強調させます。
より良いケアを探求していきましょう!

以上のことから音楽療法は個人や集団に大きな影響を与えることが分かります。
だからこそ、高齢介護の現場に携わっている人からしてみれば、いち早く実践してみたくなるでしょう。
しかし、ここで注意点があります。それは音楽療法が「心のケア」を目的としている点です。それはただ単純に「音楽を歌う」「音楽を演奏する」だけに留まってはいけないことを意味します。
音楽は勿論のこと、医学や福祉、心理学上の観点からよく吟味した上で慎重に導入を検討しなくてはいけない分野なのです。
安易な気持ちではなく、より良いケアを行っていくためにはどうしたら良いのかを考え、実行していく志を忘れてはいけないのです。