音楽は人類の長い歴史の中で、ある時は感情表現の手段として、またある時は高ぶった感情を鎮静する手段として常に人類と深いかかわり合いをもって発展してきました。
音楽は人間の美的感覚を満足させ、同時に知的過程を通らずに直接情動に働きかけ、情動を調整したり、その結果として社会適応を阻外するような衝動の昇華作用を発揮します。
音楽の以上のような作用を利用し、心身の障害の回復、特に疾患の発症や経過に動の乱れが関与するような病態の治療に音楽を用いる音楽療法は、近年心身医学領域でも種々の病態に対して用いられ、その成果の報告が散見されるようになりました。
今回は、頭頸部の不定愁訴患者に対する、近年の受容的音楽療法の実例を紹介します。
頭頸部の不定愁訴患者への治療の実例│近年の受容的音楽療法の動向

近年の受容的音楽療法の動向
ある疾患に対して特定の曲が有効であるという考え方に代わり、音楽の選択に当っては患者の個別性や治療構造を重視する考え方が主流となっています。
構造としては、ボディソニック方式の椅子を用いることが多く、聴覚のみならず振動覚も刺激する方法をとっています。
この方法を用いた報告が1987年より定期的に日本バイオミュージック研究会誌で報告されています。
頭頸部の不定愁訴患者への受容的音楽療法の実例
患者データ
- 35歳女性 主婦
- 35歳で第2子出産後より頭重感、両顎部から両頬骨部に分けての痛みが出現
- 2カ月後に症状増強し、授乳により睡眠覚醒リズムが乱れることもあり、日中の記憶力が低下し、症状及び自分の現状に関してくよくよと考えることが多くなった。 顔面の痛みは某口腔外科を受診したが、訴えに不定愁訴的な要素があると判断した担当医に当科を紹介され受診となる。
- 症例は短大卒業後事務職をしていたが、結婚を期に退職。 夫は長男だが親と別居しているため、 親威より「あなた方は長男なのに親の面倒を見ない。」と非難されていた。
- また、症例の実家と夫の実家の折り合いも悪く、症例は姑に負担を感じていた。
- さらに将来的には夫は、両親と同居して家業を継ぐ予定であった。 第2子の出産を契機として、同居の予定が早まり、同じ敷地内に家を新築する話が出ており、症例は圧迫感を感じていた。
- 既往歴として出産の直前に右中耳炎に罹患している。
治療経過
症例は初診時には話す内容が悲観的で外来でも涙が止まらない状況のため向精神薬を対症的に処方しました。
10日後に悲哀感が改善したため週1回、1回20分の音楽椅子を用いた鑑賞療法を行いました。
使用した曲目は以下の通りです。
- コンソレーション……リスト
- ドリー・フォーレ
- なき王女の為のパヴァーヌ……ラヴェル
- 夢……ドビュッシー
- シチリアーナ……フォーレ
同時に疼痛部位でもある前頭筋に電極を取りつけ筋電位を測定しました。
セッションと並行して、家族にも本人の心身両面での休養の必要性を話し、この結果夫の両親も同居についての決定を延期しました。
床症状が改善し、筋電位も低下しました。
この結果、本例において鑑賞療法は、症状の背景となる情報を得るために不可欠な治療関係の強化に寄与したと同時に、患者自身の治療意欲を引き出すことにも有効であったと考えられます。
患者の生活環境を整えることも治療には大切

いかがだったでしょうか。
今回のようにストレスが原因と考えらる場合は、生活環境を整えることをサポートし、しっかり治療に専念させてあげられるようにすることも重要ですね。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。