音楽は人類の長い歴史の中で、ある時は感情表現の手段として、またある時は高ぶった感情を鎮静する手段として常に人類と深いかかわり合いをもって発展してきました。
音楽は人間の美的感覚を満足させ、同時に知的過程を通らずに直接情動に働きかけ、情動を調整したり、その結果として社会適応を阻外するような衝動の昇華作用を発揮します。
音楽の以上のような作用を利用し、心身の障害の回復、特に疾患の発症や経過に動の乱れが関与するような病態の治療に音楽を用いる音楽療法は、近年心身医学領域でも種々の病態に対して用いられ、その成果の報告が散見されるようになりました。
今回は、うつ状態患者に対する、近年の受容的音楽療法の実例を紹介します。
うつ状態患者への治療の実例│近年の受容的音楽療法の動向

近年の受容的音楽療法の動向
ある疾患に対して特定の曲が有効であるという考え方に代わり、音楽の選択に当っては患者の個別性や治療構造を重視する考え方が主流となっています。
構造としては、ボディソニック方式の椅子を用いることが多く、聴覚のみならず振動覚も刺激する方法をとっています。
この方法を用いた報告が1987年より定期的に日本バイオミュージック研究会誌で報告されています。
うつ状態患者への受容的音楽療法の実例
患者データ
- 45歳男性、会社員
- 手足のしびれ、発汗、睡眠障害(途中覚醒、早朝覚醒)を主訴に来院。
- 来院の4カ月前より人前に出るのがおっくうで、徐々に主訴が増強。
- 既往歴では2年前に今回と同様の症状でうつ状態と診断され当科で入院加療している。 家族歴では特記すべきことはない。
- 3人兄弟の2番目で、高校卒業後に現在の会社に就職。仕事ぶりは真面目と評価されていた。 元来内向的でやや消極的。
- 表情も具合が悪そうなのに周囲を気遣い笑顔を浮かべるなど他者への配慮は強かった。
- 来院の1カ月前より欠勤がちになった。
治療経過
- 入院後の安静と薬物療法により、4週目にはほぼ症状が消失したため治療に音楽を導入しました。
方法として、1回のセッションを40分として週5回を3週間、ボディソニック方式の音楽椅子を用いました。 - 曲は患者の好みのものを選ばせました。
はじめは治療者に合わせようとしていた患者も、6~7セッション位になると、「今日はフォークが聞きたい気分だ」などと自分の主張をしはじめ、面接時には自分の生環境や内面の事をよく話すようになりました。
患者は15クールを終了した時点で退院となったが、以前に比し医師~患者間のコミュニケーションが非常にスムースになっています。
実例を参考に目の前の患者に合わせて治療を!

いかがでしたでしょうか。
今回は、うつ状態患者に対する治療の実例を紹介しましたが、患者の好みの曲を使用したことが味噌だったかと思います。
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最後までご覧いただきありがとうございます。