音楽は人類の長い歴史の中で、ある時は感情表現の手段として、またある時は高ぶった感情を鎮静する手段として常に人類と深いかかわり合いをもって発展してきました。
音楽は人間の美的感覚を満足させ、同時に知的過程を通らずに直接情動に働きかけ、情動を調整したり、その結果として社会適応を阻外するような衝動の昇華作用を発揮します。
音楽の以上のような作用を利用し、心身の障害の回復、特に疾患の発症や経過に動の乱れが関与するような病態の治療に音楽を用いる音楽療法は、近年心身医学領域でも種々の病態に対して用いられ、その成果の報告が散見されるようになりました。
今回は、心身症・神経症の方に対してどのように受容的音楽療法を行っていくか、古典的な受容的音楽療法に基づいてご紹介します。
心身症・神経症への古典的な受容的音楽療法を紹介!

自閉症・精神分裂病等の精神疾患に比し、心身症・神経症は社会適応もよく、自発性減退等の音楽療法の標的となる症状がはっきりしないため、この領域での音楽の治療への応用は比較的少ないです。
昔から「音楽により疾患そのものを治す」という考え方が根底にあったため、治療者が疾患に対して特定の曲を「処方する」という治療の形をとりました。
以下に種々の病態に対する音楽処方を紹介します。
ケース①:憂うつな方への受容的音楽療法
生き生きとした音楽が必要となります。体の新陳体謝を高め、血圧と脈拍を増加させ、内的緊張や葛藤を解消します。
そのような音楽は、生理学的には心理的効果としては、
- 注意を喚起し、憂うつな気分を追い出す
- リズムの刺激による筋活
などがあげられます。
具体的に用いると良い音楽は、
- ヴィヴァルディの四季
- メンデルスゾーンの真夏の夜の夢
- リストのメフィストのワルツ
等を用いた報告があります。
ケース②:胃腸障害の方への受容的音楽療法
胃酸の分泌の調節因子として情動は重要な役割を果たします。
Pavlovは、音楽と消化の関係を確かめ、音楽により引き起こされた快的な情緒が消化液の分泌を円滑にする、と述べている。
このため、胃腸障害に対する音楽は以下のように主としてなめらかな曲が用いられます。
- ブラームス:「ピアノ・トリオハ長調」
- バルトーク:「ヴァイオリンソナタ」
- バッハ:「2つのヴァイオリンのための協奏曲二短調」
- ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第7番」
- モーツァルト:「ソナタイ短調」
- プロコフィエフ:「組曲夏の日」
- ラヴェル:「ワルツ」
- サティ:「梨の形をした3つの小品」
ケース③:高血圧な方への受容的音楽療法
逆に1910年代から30年代にかけて柔らかい静かな音楽が血圧降下作用をもつことが種々の実験で証明されました。
このため情緒的要因の強い高血圧に対しては、柔らかい静かな音楽が用いられます。
具体的に用いると良い音楽は以下のとおりです。
- バッハ:「ヴァイオリン協奏曲ニ短調」
- バルトーク:「ピアノ・ソナタ」
- ベートーヴェン:「ピアノ・ソナタ第8番」
- ボッケリーニ:「フルートと弦楽のための協奏曲ニ長調」
- ボロディン:「四重奏曲第2番ニ長調」
- ブラームス:「四重奏曲第1番ト短調」
- ブルックナー:「ミサホ短調」
- ドビュッシー:「ピアノの為に」
心身症・神経症に対する音楽処方は次第に下火となる

いかがだったでしょうか。
不安・緊張・恐怖等の感情は交感神経系の緊張を高め、血圧を亢進させます。
このように1940年代に受容的音楽療法は音楽処方という形をとり種々の疾患に用いられたが、その後、特にアメリカでは心身症・神経症に対する音楽処方は下火となりました。
他の記事でも受容的音楽療法についてご紹介していますので、ぜひご覧くださいませ。
最後までご覧いただきありがとうございました。