音楽療法を研究する人達は、音楽の作用の基礎が、音楽の体に対する作用によることを証明しようとしてきました。
人が音楽に感動するのも、音楽で慰められるのも、うっとうしい気持ちがすっきりするのも、力が張ってくるのも、すべて音楽が体に何らかの作用をして生理的にプラスの変化を体に引き起こすためだと考えました。
そして実に膨大な研究が行われました。
その研究を踏まえ、2つの記事にかけて、音楽の生理的作用を説明し、音楽療法の効能の理解を深めていきます。
前編の今回は、音楽の身体指標への影響の研究について、ご紹介します。
ぜひ最後までご覧ください。
【初心者向け】音楽の生理的作用とは?|音楽療法の効能を理解しよう!

最も研究者の関心を集めたのが、脈拍と呼吸です。
緊張したり興奮すると脈拍は速くなり、その逆に、落ち着いて安心してくると脈拍は遅くなる。
呼吸も、気分が落ち着いて静かな気持ちの時はゆったりとし、驚いたり恐怖の場面では、促迫し不規則になる。これが誰もが知っている脈拍や呼吸と感情の関係です。
音楽と呼吸・脈拍/血圧の関係
もし音楽によって脈拍が変化し、呼吸が平常の呼吸と変わるとすれば、またもしそれらの変化が全ての被験者に一様に見られるものであるとすれば、それは音楽が体に影響を与えた結果だと考えたいというのです。
至極当然の考え方です。
しかし過去の実験が示した成績は、変化は見られても全ての被験者に同一ではなく、むしろその変化は、人によって増加する人もあれば減少する人もあり、個人差が非常に強いものだということでした。
音楽の性格と脈拍、呼吸の変化の間には一定の傾向は見つけられなかったのです。
血圧についても同様でした。
人が音楽を快いと感じるポイントとは?
この結果に対して、バーライン(D. E. Berlyne)という学者は、人が音楽を快いと感じるのは、その人の現在の覚醒度と関係があり、覚醒度が低いときには覚醒度を上げるような音楽刺激が快いと感じられ、また覚醒度が高いときにはその覚醒度を減少させるような音楽刺激が快いと感じられるので、定した結果は出ないのだと述べています。
芸術は一般に覚醒度を高めるように働くといわれていますから、前者では音楽が快く感じられるのに反して、後者では不快に感じられてしまうわけです。その結果が、身体反応の不整合につながるという説明です。
音楽と脳波
身体指標には、脳波も用いられています。
しかしそこで得られた成績も、音楽を聴くことで積極的に脳波が左右される証拠は、いまだ見つけられていません。
大脳生理学の品川嘉也は、数百人の被験者による実験の結果、音楽を聴いている時は、&波の平均周波数がほんの僅かではあるが速波化することを指摘して、それがリラックスとは反対に、脳が知的作業をする証拠だと述べ、バーラインと同じ結果を報告しています。
また、大脳生理学の鳥居鎮夫は、脳波研究においては、α波の増加より、波の減少、つまりβ波の増加に着目すべきであることを提唱しています。
音楽と皮膚の電気抵抗
皮膚の電気抵抗を調べる方法も有名です。
嘘発見器としても知られるように、感情的に引き起こされる発汗現象が掌の電気抵抗を変化させる性質を使って、音楽による感情の変化を検出しようとするものですが、これも、音楽の種類による著しいパターン変化を示していません。
さて身体指標として、過去10数年、新しく皮膚末端温度と筋緊張度の測定が加わりました。
高精度のセンサーの開発で、皮膚温の瞬間的な高さや筋緊張度の測定が可能になりました。
この2つの指標は、人間の精神のリラックス度を示す有力な指標であることが明らかにされています。
これらを用いて音楽は初めて有意味な結果を示してくれるようになりました。
それが音楽聴取とリラックスの関係です。
タウト(Michael H. Thaut) らの実験によりますと、聴く音楽の種類に拘わらず、本人が聴きたいと思う音楽の場合には、どんな音楽でも、共通に身体の緊張が解け、体表面の毛細血管が拡張して皮膚温が上昇し、かつ筋の緊張度が低下します。
音楽は人にリラックスを与える最適な刺激なのです。
音楽は人にリラックス効果を与える

いかがだったでしょうか。
音楽と身体指標については、様々な研究がされていており、
技術的な進歩の甲斐もあって、ようやく皮膚温の瞬間的な高さや筋緊張度に影響があることが分かりました。
別の記事にて、音楽の生理的作用の後編として、音楽生理作用そのものの解釈についてご説明します。
最後までご覧いただきありがとうございます。